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医療法人社団 愛友会 千葉愛友会記念病院

千葉愛友会記念病院 院長 市村 三紀男 先生(東京医科歯科大学医学部 臨床教授)

産科を取り巻く環境が厳しい中で、産科を立ち上げられた経緯と院長先生のお考えをお聞かせ下さい。

一つ物事を行うときに一つだけの効果をねらうとか一つだけの狙いであるとかいう事があるかも知れませんが、私は一つやる時に四つから五つぐらいの事を考えています。

人が考えもつかない事を考えているかも知れない、そんな感じがします。

直接の理由は、千葉県の平成18年の保険医療計画で、この地域になんと774床の増床枠ができたのです。

この地域は千葉県の東葛北部地域と言いまして、柏市・野田市・我孫子市・松戸市・流山市の合わせて人口129万人で、地方の県の一つに相当する地域です。

平成17年に「つくばエキスプレス」が開通しまして、陸の孤島に近かった流山市から首都圏へのアクセスがダイレクトになりました。さらには松戸・柏は住宅都市でどんどん人口が増えておりますから、この状況に医療機関が追いついていけないという事なんでしょうね。おそらく空前絶後ではないでしょうか?

今のベッド数を減らそうという時に病院が何個もできる増床枠という事になりますね。

もう一つは平成17年にこの病院の院長を引き受けたのですが、それまでは療養がある老人病院的なイメージで、いわゆるケアミックス病院でした。

その内容は療養の為の一般病棟という事で、一般病棟の中身も実は療養の患者さんが熱発すると一般に移して治療していたという、ほとんど一般も療養も患者さんの質が変わらなかった。

冗談ではないが「流山総合病院ではなく流山老人病院だね。」という風な感じだったのです。

当然の事ながら看護師さんの数は足りないので看護単位は一番下でした。

また、ハードも非常に貧弱で例えば救急が1台来たら後はもうお手上げ、手術室も同じでとても急性期の病院としてのハードが無かった訳です。その様な状況ですので、近隣の住民の方、救急隊の方、そして開業医の方からも老人病院との認識しか持たれていなかったのです。

そして一番私が大きいと思ったのは「今までこれでやっていて何とかなったんだから、これでいいだろう。」という職員の意識です。

だからインパクトがあって、全国的に病院のネームバリューを轟かす方法が無いだろうかと考えた時に、産科の立ち上げしか無かった。

もちろん最大の理由は私が産婦人科医であるという事です。増床の申請に当たり、少なくとも産婦人科医が一人はいる訳ですから、私が住み込みでやれば何だってできるという事が増床の理由付けとしての信用性が違うわけです。

産科を始める、当然赤ちゃんが生まれて子どもがだんだん増えていくと、小児科も充足させなくてはいけない、そうすると赤ちゃんから高齢者まで幅広いキャパシティができ、患者さんの層が変わってきます。

病院の雰囲気も変わり、一般病院としての意味合いと言いますか、意義付けが出来るようになってくると同時に少しずつ職員の意識も変わってきます。

次には人、職員を集めるという事です。看護師さんにも産科をやりたい人はいっぱいるのです。

私は全国230の看護学校を、自分でアポイントを取りスケジュールを立てて、北は北海道、南は沖縄まで歩きました。

私は「こういう医療をする、こういう病院を作るんだ。」と話しをしました。

例えば「一般急性期をやっている病院です。」と言っても、どこの県にもある訳で、特別に給料が高い訳でもないし、公務員でもない、そして民間病院で施設が特に新しいわけでもありません。

病院として付加価値が作れるかという事になると「産婦人科やります・・。」(実は他にも色々あるんですが。)が大きな柱になるのです。今年もそうですが、入ってこられる新人の大半の方が産科をやりたいんです。つまり人を集める求心力になるんです。そういう意味合いも考えて産科を始めるという事なんです。

今年度から産科に対する無過失保障制度ができましたが制度ができた経緯も含めどのようにお考えですか

あまり意味がない。.なぜかと言うと我々医師はほぼ全員が医師賠償保険などに入っています。

ですから階上階を重ねるようなもので、現実的にはあまり意味がない。

ただし医師賠償保険において損保会社が医者の過失がないと言った時、お金が降りない時があるので、そこの隙間を埋めようという発想だと思うのですが、金額的に中途半端ですね。

まあ、最初の一歩だし仕方がないのかなと思いますが、やるのであれば厚生労働省が直にやるべきでしょう。

全国的にも厳しいなかで千葉県を取り巻く周産期医療はどうなっているのでしょうか?

千葉県母体搬送システムですが、一昨年の12月に千葉県の産婦人科医が主体に地域周産期センター、及びそれに相当する施設をいくつか決めたんですが、この近くでは松戸市立病院になります。

松戸市立病院が受け入れ不能という場合は亀田総合病院のコーディネーターが受け入れ先を探す事になります。

当院も昨年、順天堂浦安病院にお願いをして搬送したというのが1件ありました。

地方での医師不足、そして全国的に産科医・小児科医が不足していると叫ばれていますが、現状をどのようにお考えでしょうか?

今年の2月末に流山市と松戸市の救急隊の勉強会がありました。何故産科がこのようなっているかの原因として①頻発する医療トラブル②女性医師の増加③医師の都市に偏在を助長する新臨床研修制度、この三つのうちのどれだと思われますかと聞いたのです。

一番手が挙がったのが①番の医療トラブル、③番の新臨床研修制度を挙げた方もいますが、驚くかもしれませんが産婦人科崩壊の最大の理由は②番の女医の増加なんです。

今年の4月に近隣の大学病院の産婦人科に入局する医師の80%は女医さんなんです。産婦人科学会では20歳代の会員の72%は女性なんです。

問題は女医さんの10年15年後がどうなっているかです。

自分の大学の入局者名簿を調べると女医さんは10年経つと2割くらいしか残りません。

ですから帳簿上、厚労省の持っている産科を標榜している医者の数と、産婦人科学会の医者の数と、実就労人数とのギャップがあり過ぎて、産科の現場で働いている医師の実数が極端に少ないというのが、この科の最大のウイークポイントですね。

実就労人数が激減するのは、転科したり、産婦人科をやってもパートだったり、本人の出産後に現場から離れたりしてしまうからです。

女医さんの働く環境の改善と言われますが、大学病院であるとか財政的に余裕がある病院では保育施設などを用意を出来ますが、地方の財政がぎりぎりでやっている病院に、それを要求するのは難しいですね。

厚生労働省とかが補助金を出して、保育所に預けられるようにするとかでなければ無理ですよね。

地方の医師不足の問題ですが、地方の医学部で100人の医学生を定員として採るのであれば、その内50人を特別奨学金による地元に留まることを義務付けする地方枠にして、後の50人をフリー枠にすればいいのです。

フリー枠はものすごく競争率が高くなるので優秀な学生が集まります。そういう人達はある意味研究者になればいいんです。

そして地方枠の人達には地域医療をやってもらえばいいのです。

また、地方で脳外の医師が不足することが見込まれれば脳外を志望する学生の枠を設けるなど、入試のところの枠でバリエーションを設ける事によって専門医の不足を補う事ができると思うのです。

発想としてそれくらいの事をやらないと、今の地方での医師不足や産科不足だとかいった事は無くならないでしょう。

私の同級生で、地方大学の教授になっているのが何人かいますが、みんな誰もその地方に残らないと嘆いています。

やはり地方の医療を支えるために地方枠を作るべきでしょうね。

それでいろんな意味で地方と都会の対流も起きるでしょうし、その辺の意識です。

代理出産や着床前診断など不妊治療・生殖医療の最近の動向をどう思われますか。

実は何十年も前からごく限られた医療機関でAIDをやっていたのですが、いわゆる人工授精でも第三者の精子を使うというものです。小説なんかもありましたよね。

ただ、子宮全摘をされた方の代理母とかありますが、いわゆる母親とは何なのか親とは何なのかという事になってきます。

これは非常に難しい問題で生殖医療は技術が発展し、人間の心の部分が追い付いていかない、という感じがします。

生殖医療は、金銭的な問題も抱えています。精神的にも倫理的にも金銭的にもギャップが非常に大きく、これを埋めるものがない感じがします。

そして、不妊治療で体外受精をされる方は高齢の方が多い訳で、不妊治療という技術が上がっていくことと、ハイリスクの妊婦さんが増えていくことはある意味パラレルの関係ですね。

女性の生活が多様化しているのでそれだけが理由ではないですが、いいとか悪いとかではなく、そこを埋める倫理的な裏付けになるものが無いような感じがしています。

院長先生は産婦人科を目指された理由はなんですか?

基本的には外科系に行きたかったんです。医学部5年生の夏休みの時の実習で行った山梨県の国立療養所では、半分の患者が重症の心身障害児だったのです。

そこに一週間いまして、脳性麻痺、進行性の筋ジストロフィー、神経難病の子どもが寝たきりでいっぱいいる訳で、非常に心に響いたというか原因が分娩時の損傷・脳障害というのが多いわけですから、これは何とかしなければと思い、その辺が産婦人科をやってみようと思った一つのきっかけにはなりました。

その思いは今でも変わらないです。私がここの産婦人科でやっているのは安全ということです。

けして無理をしない、無理をして100のうち99上手くいっても1例失敗したら全部失敗したのと同じです。

100例なら100例とも全部成功しなければ意味がないのです。

ですから逆子であるとかその他のリスクの高いの方に対して決して無理しないし、赤ちゃんも母体も安全というのが何よりだと思っています。

繰り返し繰り返し、助産師にも医師にも言うのですが「私達が提供するのは母体・赤ちゃんの安全」これが当院の産科のコンセプトなんです。

もちろん快適も付いてきます。そのために新しい施設を作りましたが、安全が9分9厘です。

あとの1%が食事や何かで良いと思います。

とにかくきちんとお産を終えて、お返しできるようにするのが、学生の時の原体験というかその辺に基づいています。

助産師・看護師に院長先生が望むものはなんですか

実は助産師学校と提携を結んでいまして、実習をお受けしたり、非常勤講師として行くのですが、当院の職員も社会人枠として2名入学させたんです。

私は助産師さんはまず立派な看護師であるべきだと思うのです。

これから産婦人科の医師が少なくなりますので、看護師も含め医療従事者が一人で対応する内容が多くなってくる気がするんです。

そうなると全身の管理が出来なくてはならない。心電図も脳のCTスキャンの写真が読める、全身の状況を診て何かの疾患であるとか、ある程度予測がつくような助産師・看護師が必要だという事です。

看護大学、看護学校を出てそのまま助産師になった方は産科以外の事を知らないのです、それはあまりいい事ではないと思っています。

医師のスーパーローテーションに相当する形で、他科の知識を得る機会が必要だと思うのです。

助産師さんがman to manで、face to faceで対応するその時に妊婦さんがどういう状況なのか見抜いて、これは産科的な異常なのか全身的に何か異常が起きているのか診れないといけない。

当院では一般をやってくれた方を助産師にしたいのです。全身を診られる助産師を作りたい訳です。

もちろん看護師も同じです。

やはり全身を診る事の基本は救急のABCです。急変があった時に何をしたらいいのか、医師の送管の補助が出来るか、どうやって人工呼吸すればいいか、救急のABCが必要なんです。

これから看護師、助産師として身を立てたいと思っておられる方であれば、全身が診られる、特に救急のABCが身についているかどうかで随分違うと思います。

是非、機会を作って研鑽を積んで勉強をして、それから先に進んでいただきたいと思います。

当院では看護の教育を全く新しいスタイルでやり始めています。

少人数チューターシップで「流山方式」と言い独自のカリキュラム・テキストを使っています。

臨床に即しEBMを踏まえた体系的な知識や技術が、誰から習っても同じように身に付くようなスタイルが必要になってくるし、全身チェック・全身管理ができる看護師、助産師であってほしいです。

当院はそういうスタイルを目指していますし、是非他の医療機関も同じようなスタイルで看護師、助産師の養成をしてほしいと思っています。

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